バレーボールのアタック、テニスのサーブ、ゴルフのスイング、さらにはパソコン作業や家事での繰り返し動作。肘の内側がジクジク痛むようになったことはありませんか?
それ、「尺側手根屈筋(しゃくそくしゅこんくっきん)」という筋肉のトラブルが関係しているかもしれません。
今回は整体の視点から、この筋肉が原因の肘の痛みにどうアプローチするかをわかりやすく解説します。施術の理論的な裏付けも紹介しますので、ぜひご自身のケアや理解に役立ててください。
尺側手根屈筋(Flexor Carpi Ulnaris)は、前腕(ひじから手首にかけて)の内側を走る筋肉で、以下のような働きをしています。
手首を曲げる(手のひら側にたおす)
小指側に手を動かす(尺屈といいます)
この筋肉は、肘の内側の「内側上顆(ないそくじょうか)」という骨の出っ張りから始まり、手首の骨(豆状骨など)にくっついています。
繰り返し手を使う動作やスポーツで負荷がかかると、この筋肉が硬くなったり、付け根の部分(肘の内側)が炎症を起こして痛みが出ます。
バレーボールのアタックや、ラケットを振る動作では、手首を強く使うため、尺側手根屈筋にも大きな負荷がかかります。とくにインパクトの瞬間やフォロースルーで急激に引き伸ばされたり収縮するため、次のような状態になりやすいのです。
筋肉の過緊張(こわばり)
腱の付着部の微細損傷
内側上顆炎(いわゆる「ゴルフ肘」)
この状態が続くと、筋膜(筋肉を包む膜)や腱周囲にもストレスが広がり、慢性的な痛みに変わっていきます。
整体では、筋肉や関節、筋膜のバランスを整えることで、痛みの根本にアプローチします。尺側手根屈筋が関わる肘の痛みには、次のような理論と手技を用いて対処します。
近年、筋膜の癒着が痛みの原因になることが多くの研究で明らかにされています(Langevin et al., 2002)。尺側手根屈筋の筋膜が周囲の筋肉(橈側手根屈筋、長掌筋など)と癒着を起こすと、スムーズな動きが妨げられ、負荷が局所に集中します。
整体では、この筋膜の滑走不全を改善するために、ゆっくりと圧をかけながら筋膜をリリースします。
尺側手根屈筋には「トリガーポイント」と呼ばれる、押すと響くようなポイントができやすいです。これが神経を刺激して、肘や前腕に痛みやだるさを広げます。
このポイントを手技で緩めることで、痛みの信号をブロックし、筋肉の緊張も同時に和らげることができます。
筋肉だけでなく、関節の動きが悪いことも原因です。肘関節や手首の「関節包」が硬くなると、尺側手根屈筋に余計な引っ張りが生じます。
整体では、関節の可動域を少しずつ拡げるモビライゼーションという手技を行い、関節周囲の柔軟性を取り戻します。
肘の痛みは局所の問題だけではなく、肩や肩甲骨の動きとも深く関係しています。アタック動作では、腕全体を連動させて使うため、肩の動きが悪ければそのぶん肘に負担が集中します。
整体では、広背筋や大円筋など、肩甲骨につながる筋肉も同時に調整することで、動きの連動を取り戻します。
問診・動作チェック
肘のどこが、どの動作で痛いのかを詳しく伺い、再現テストをします。
筋肉・筋膜の評価
尺側手根屈筋や前腕の他の筋肉の緊張、トリガーポイントを確認。
筋膜リリース・トリガーポイント療法
肘の内側から前腕・手首まで丁寧にリリースしていきます。
肩〜背中の調整
肩甲骨や胸椎の動きも含めて全体の連動性を高める施術。
セルフケアの指導
自宅でできるストレッチや姿勢改善もアドバイスします。
手のひらを上にして腕を前に伸ばす。
反対の手で指先を持ち、手のひらを下に向けるように引っ張る。
肘の内側が伸びる感覚を感じながら、15秒キープ。
→ 無理に伸ばさず、気持ちいい範囲で行いましょう。
アタックやスイング動作で手打ちになっていないか?体幹や肩がうまく使えているか?確認しましょう。
使いすぎは筋肉や腱の回復を妨げます。痛みが出たらすぐにケアを。
急性期(ズキズキする)には冷やし、慢性期(重だるい)には温めるのが基本。
肘の内側の痛みは、我慢していると長引きやすく、パフォーマンスの低下にもつながります。筋肉の緊張や使いすぎが原因であれば、整体によるアプローチで十分に改善が期待できます。
痛みの原因をしっかり見極め、正しくケアしていくことが何よりも大切です。「肘が痛い」と感じたら、無理せず、まずは専門家に相談してみてください。
2025/07/04