整体師として患者さんに動きを扱うとき、筋肉の「縮む動き(求心性)」と「伸びながら力を出す動き(遠心性)」を意識するだけで、痛みの出にくい使い方、運動の効率、再発予防が劇的に変わります。日常動作(階段を降りる・座る・重いものを下ろすなど)の多くは遠心性が重要で、そこを鍛えたりコントロールしたりすることでケガの予防や疲労軽減につながります。
求心性(きゅうしんせい)収縮:筋肉が短くなりながら力を出す動き。例)膝を伸ばして立ち上がるときの太ももの前(大腿四頭筋)。短縮収縮は“動きを始める/押す”場面で使います。
遠心性(えんしんせい)収縮:筋肉が伸ばされながら力を出す動き。例)階段を一段ずつ下りるとき、太もも前が伸びながらブレーキをかける。遠心性は“ブレーキ/衝撃吸収/コントロール”に強く関わります。
遠心性は同じ力を出すのに消費エネルギーが少なく、高負荷を低疲労で扱える特性がありますが、慣れないと筋損傷(筋肉痛)が出やすい点に注意が必要です。
以下は日常の場面ごとに“どう意識するか”“何を鍛えるか”を整体師目線でまとめた実践的アドバイスです。無理な負荷は避け、痛みがある場合は「専門家に確認が」。
やり方:一段ごとに「ゆっくり」「膝を軽く曲げて」降りる。足を下ろすときに太もも前(大腿四頭筋)でブレーキをかけるイメージ。
効果:膝関節への衝撃を減らし、膝痛予防に寄与。階段降下は遠心性負荷の代表で、ここをコントロールできると膝の安定性が上がります。
やり方:荷物を下ろすときは膝を曲げて腰ではなく脚で受け止め、下ろす過程をゆっくり行う(落とさない)。
効果:腰への急激な伸張や衝撃を避け、腰痛のリスク低下。遠心性で“力を出しながら伸びる”ことが安全な動作になります。
やり方:椅子から立ち上がるときは、まず前傾→足でしっかり床を踏む→膝を伸ばして起き上がる。求心性(短縮で押す)を意識。
効果:日常の基本動作で筋出力を使いやすくなり、立ち上がり時のふらつきや転倒リスクを下げる。
遠心性メニュー(例:ゆっくりのスクワト下降、片脚での降り動作)は筋力だけでなく“動きのコントロール”を高める。高齢者の筋力維持や転倒予防にも有効という報告が増えています。
求心性メニュー(例:ゆっくり立ち上がる、レジスタンスで短縮動作)は動作開始力や爆発力向上に有効。競技的ニーズや日常の素早い動作に使えます。
徐々に負荷を上げる:特に遠心性は筋損傷を起こしやすいので、回数・速度を少しずつ増やす。最初は「ゆっくり5〜10回×2セット」から始めるのが無難。
痛みが出たら中止:鋭い痛みや関節からのロック感が出たらすぐにやめ、専門家に相談する(専門家に確認が)。
疲労と回復を考える:遠心中心の負荷は遅発性筋痛(DOMS)が出やすく、回復日を入れる。DOMS自体は筋力低下や炎症を伴うことがあるため量の調整を。
「階段を降りるときは“ゆっくり下ろす”イメージで、太ももでブレーキをかけるようにしましょう。」
「荷物を下ろすときは腰を丸めず、膝を使って受け止めてください。落とす動作こそ遠心性の練習になります。」
「立ち上がりは“押し上げる”より“足でしっかり床を踏む”ことを意識してください。求心性の出し方が変わります。」
これらは日常的に言い換えて使える指導語句です。
以下は本記事で最も負荷の高い主張を支える代表的なレビュー・論文です(必ずしも全部が一次RCTではありませんが総説・レビューとして信頼できるものを提示します)。
Padulo J., et al., “Concentric and Eccentric: Muscle Contraction or Exercise?” — 総論として両収縮の特徴を分かりやすく整理。
Kim DY., et al., “Applications of Eccentric Exercise to Improve Muscle and Mobility Function in Older Adults” (2022) — 高齢者の日常機能における遠心性トレーニングの利点をまとめるレビュー。
Franchi MV., et al., “Skeletal Muscle Remodeling in Response to Eccentric vs. Concentric Exercise” (2017) — 遠心性と求心性の筋リモデリング差異を示す基礎的レビュー。
Proske U., Morgan DL., “Muscle damage from eccentric exercise: mechanism and clinical applications” (2001) — 遠心性に伴う筋損傷メカニズムの古典的解説。
Duchateau J., Enoka RM., “Insights into the neural control of eccentric contractions” (2014) — 神経制御の観点から遠心性の特性を解説。
日常の多くの「止める・下ろす・衝撃を吸収する」動作は遠心性が鍵。ここをコントロールできると痛み予防や疲労軽減、動作の安定性が上がります。
求心性は「動きを始める・押す」場面で重要で、バランスよく取り入れると機能的。
だが、わからない点もあります(個々人の最適な負荷・回復のペースなどは個体差が大きい)。専門家に確認が必要な場合:既往の整形外科疾患、激しい痛み、術後や不安定な関節がある方。
求心性(短縮)と遠心性(伸張)を目的に合わせて使い分けると、日常動作の安全性と効率が上がります。整体師はこれを利用して「階段の降り方」「荷物の下ろし方」「立ち上がりの練習」などを指導しています。遠心性の導入は効果的だが筋損傷リスクを考慮し、段階的に行うことが重要です。
2025/12/04