「毎日デスクワークをしていると、夕方には肩が岩のように硬くなる」 「マッサージに行っても、翌日にはまた凝っている」
そんな悩みを持つ方は非常に多いですが、実は「ただ座っているだけ」なのに肩が凝るのには、医学的・物理的な「本当の理由」があります。本記事では、最新の知見を交え、デスクワークと肩こりの切っても切れない関係を徹底解説します。
デスクワーク中、集中するほど顔がモニターに近づき、顎が前に出ていませんか?
人間の頭の重さは、成人で約4〜6kg(ボウリングの玉1個分)あります。首の骨(頸椎)の真上に頭が乗っていれば、その重さは骨で支えられます。しかし、頭が数センチ前に出るだけで、首の付け根にかかる負荷は**約3倍〜5倍(12kg〜27kg相当)**にまで跳ね上がります。
これを物理学では「モーメントアーム(回転軸からの距離)」と言い、距離が長くなるほど、筋肉は頭が落ちないように強い力で引っ張り続けなければなりません。この**「持続的な筋緊張」**が肩こりの最大の原因です。
「動いていないのになぜ疲れるのか?」という疑問の答えは、筋肉の収縮スタイルにあります。
重い荷物を運ぶような「動く運動」とは違い、姿勢を維持するデスクワークは筋肉が同じ長さのまま力を出し続ける**「等尺性収縮」**です。 筋肉が硬く縮まった状態が続くと、筋肉内の血管が圧迫されて「ホースを足で踏んだ状態」になり、血流が滞ります。すると、酸素不足に陥った組織から、痛みや不快感を引き起こす物質(ブラジキニンや乳酸など)が放出されるのです。
キーボードやマウスを操作する際、腕は体の前方にあります。このとき、肩甲骨は外側に開いた状態(外転)で固定されます。 肩甲骨を支える**「僧帽筋(そうぼうきん)」「肩甲挙筋(けんこうきょきん)」**は、この姿勢を維持するために常に引き伸ばされながら緊張しています。これを「遠心性収縮」と呼び、筋肉にとって非常に負担が大きく、微細な損傷や炎症を招きやすい状態です。
「これを飲めば治る」「この器具で完治する」といった表現には注意が必要です。肩こりは生活習慣に起因する身体的状態であり、特定の商品の使用だけで医学的な「治療」が完了するわけではありません。
セルフケアの限界を知る: ストレッチや市販の温熱シートは「緩和」を目的とするものです。
専門家へ相談: 手に痺れがある、指先に力が入らないといった症状がある場合は、単なる肩こりではなく、頸椎症やヘルニアの可能性があります。その場合は速やかに整形外科を受診してください。
「30分に1回」の姿勢リセット: 筋肉の血流を再開させるには、一度力を抜くことが不可欠です。タイマーを設定し、30分に1度は肩をすくめてストンと落とす動作を行いましょう。
肘の角度を90度に保つ: 肘が浮いていると、その重さをすべて肩の筋肉で支えることになります。椅子の肘掛けやデスクを使い、腕の重さを分散させましょう。
モニターの高さを「視線の高さ」に: モニターの上端が目の高さに来るように調整すると、自然と頭が前方に出るのを防げます。
デスクワークによる肩こりの本質は、**頭部が前方へ移動することによる物理的負荷の増大(モーメントアーム)と、同じ姿勢を続けることによる筋肉内の血流阻害(等尺性収縮)**です。単に筋肉を揉みほぐすだけでなく、作業環境の整備とこまめな離席によって「筋肉を休ませる時間」を作ることが、悪化を防ぐ唯一の近道です。
頭部傾斜角と負荷の関係: 頸椎への負荷が姿勢によって数倍に増大することは、Hansraj (2014) のシミュレーション研究等により示されています。
血流と筋緊張: 持続的な筋収縮が筋肉内の圧力を高め、毛細血管を虚血状態にすることが生理学的に確認されています。
肩こりの背景に、内臓疾患(狭心症、胆石症など)の関連痛が隠れている場合があります。「休んでも全く痛みが変わらない」「冷や汗が出る」といった場合は専門医の診断が必要です。
個人の骨格や視力(乱視や老眼)の状態によっても、最適な姿勢は異なります。
Hansraj, K. K. (2014). Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head. Surgical Technology International, 25, 277-279.
日本整形外科学会「肩こり」ガイドライン/解説資料
厚生労働省「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
次の一歩として: まずは、ご自身のデスク横に鏡を置くか、スマホで作業中の横顔を撮影してみてください。自分が思っている以上に「頭が前に出ている」ことに驚くはずです。その気づきが、改善への第一歩となります。
2026/01/22